Under The Darkness
京介君の『本当』を知るために、この歪んだ関係に終止符を打つために、最初で最後の『賭』をしてみようと思ったのだ。
私は京介君の首から腕を解き、そっと彼の頬に触れた。
「京介君は、私を憎んでる。復讐したい。そう言うたやな? 殺したい思てる?」
そう言って、私は左の手首を飾る細身のリストバンドをずらした。
そして、掌を返す。彼の目に映るように。
「……リストカット、ですか」
抉るようにして手首の血管が裂かれた傷跡。
昔、意識がないままナイフで動脈を傷つけてしまい、私は放心したまま意識を失って、気が付いたら病院のベッドの上だった。
あと数分発見が遅かったら命を落としていたらしい。
今も残るその時の醜い傷跡。
「加減なく無意識でやってまう。それで、私、中学入ってすぐ入院した」
自ら明かした。自分の弱さ、脆さを。
京介君が何を欲しているのか、この関係を終わらせるために、知りたかったから。
「なあ、私が憎い?」
京介君の視線は、私の手首を捉えたまま離れない。
動きを止め、艶やかな黒真珠の双眸が動揺するように小さく震えた。
「これ以上京介君の憎しみに曝されるん、辛い。多分、また近いうちにやってまう。自分で汚れ取ろうとたくさん擦ってまうん、あれは前兆やから。自分を否定して、最後は死のうとするんやて。その行動に自我がないん。無意識に加減なくやってまう。だから怖いんやって医者が言うてた。なあ、京介君は私を殺したいほど憎い?」
京介君の眉根がキツく顰められる。
深い縦皺を刻み、逡巡しているようだった。
「京介君、私を抱いても、全然憎しみは晴れへんねやろ?」
爪で傷つけてしまった京介君の頬に掌を当てて、私は静かに口を開いた。
「ほんなら、もう、殺してしまい」