Under The Darkness
私は瞠目し京介君を見上げた。
真摯な顔。
愛する強さで『愛』を否定する。
彼の顔に浮かんだ表情と、発した言葉の矛盾に、違和感を覚えてしまう。
「けれど、私は決して貴女を離しはしない。他の男になど渡しはしない」
「……傲慢なっ」
京介君が内包する彼の複雑さに、私は目を眇めた。
愛さないけれど離しはしない。
誰にも渡さない。
それは、彼が語った言葉とは全くの裏腹な矛盾を孕んでいるものだと、きっと京介君は気付いている。
分かっていて言っている。
私の反応を見るために。
私は今、彼に試されているのだと気付いた。
私が彼を試したように、京介君は今、私の中にある自分でも分からない答えを引き摺り出そうとしている。
「私が貴女を手放すことは、決してない」
憎しみと同じ強さで彼が求めるその答え。
私の全てを奪い尽くすほど貪欲な京介君の双眸と言動に、その答えはあった。
恐らく私は、答えを見つけてしまった。
「本当に逃げたかったら、私を殺せばいい」
京介君はさっき私が言ったセリフと同じ言葉を口にした。
どこか恍惚とした表情で、まるでそれを望んでいるかのような物言いに、私は意図せず心を掴まれてしまう。
「もし貴女が自分を傷つけ、結果、死ぬようなことがあれば。私はすぐに追っていきますよ。蘭奈さんの目の前で貴女を犯してやります。……美里さんを支配する男は私だけだと」
そうして京介君は再び私を翻弄し出す。
僅かに残った理性を残らず刮《こそ》ぎ取られて、剥き出しになる本能を京介君の手で蹂躙されてしまう。
霞みがかる意識の中、京介君の言葉を反芻した。
京介君が言う『憎しみ』は、私が嫌悪する『好き』や『愛』と言う感情に酷似していると思った。
けれど、豪が私に伝えたおぞましい『愛』とも似て異なるような気もする。
京介君の望み。
それは、私が望んで彼に捕らわれること。
心を明け渡してしまうこと。
でも、私はそれを望んではいない。
気持ちは平行線を辿るまま、私達はこれからどうなるんだろうと、澱のように澱んだ不安がひたひたと心を満たしていった。