Under The Darkness
「きょ、京介君っ」
振り返ると、昨夜と同じ上半身裸のままな京介君が、ベッド脇に腰掛け長い足を組み、私を興味深げに眺めていた。
包丁を握りしめたまま、思わず後退ってしまう。
「おはようございます」
昨夜見せた激憤はナリを潜めたのか、にっこりと爽やかな笑みを向けてくる。
火を噴くかと思うほど、顔に熱が集中しだす。
京介君の告白が蘇り、私はどう反応していいのか分からなくて。あわあわと慌てて京介君から顔を逸らせてしまう。
「あ、ああ、うん、オハヨ」
不自然極まりないオウム返しな棒読み口調で挨拶を返してしまい、意識してるのがバレバレだと顔を顰めた。
「……単純な。面白いほどに分かりやすい人だ」
小さく何事か呟き、ブッといきなり吹き出した京介君を再び振り返る。
京介君は口元を掌で覆い隠し、俯きながら、肩をフルフルと震わせていた。
「な、なに、……なんなん!?」
何かを含むような嗤いに、私は途端に不安になる。
悪巧みをしているような、そんな京介君の様子に、私は怪訝な目を向けた。
涙を滲ませた上目遣いで、私を観察するように見つめていた京介君の笑みが、テレビの画面が切り替わるようにして人の悪いものへと変わる。
――――こ、怖っ!
私はバッと視線を逸らし、何も見てない聞いてないとばかりにそそくさと調理の続きに取りかかるんだけど。
なぜか手元が覚束なくて。
包丁を持つ手が震えてしまっていた。