Under The Darkness




 こぢんまりしたテーブルの上に所狭しと並べられた朝食を見て、京介君はにっこりと爽やかな笑みを浮かべた。


「これは、明らかに嫌がらせですよね?」


 私は京介君の非難を無視して「いただきまーす」と箸を握る。

 京介君もつられてしぶしぶ箸を握るのだが。

 明らかに箸が進んでいない。

 私はにんまりと嗤った。


「全部食べんとアカンねんで」


 これくらいの仕返しくらいいいだろう。

 京介君のあのイヤそうな顔。

 全ての料理になにかしらの野菜が混入しているのだから。


「ええ。いただきますよ。美里さんが作ってくれたのだから」


 むっつりとそう言うと、ご飯が入ったお茶碗に手を伸ばした。


「あ、これな、キノコの炊き込みご飯やねんけど、昨日のスーパー椎茸特価でいっぱい買うたんよ。椎茸三昧やねん」


「……」


 京介君の手がピタリと止まる。



「あ、それな、卵焼きにネギ大盛り入れたん」


 なんだか楽しくなってきた。

 あの傲岸な男・京介君を私が今、黙らせているんだから。

 秀麗な顔が鬱屈と歪み、嫌そうに眉をひそめる。

 でも、我慢しているのか、ほとんど咀嚼せず飲み込む姿に吹き出しそうになる。

 じっと京介君を観察していて、おや? と、あることに私は気付いた。

 野菜三昧な献立に顔は歪んでいたけれど、お箸の使い方が驚くほどに綺麗だったんだ。

 流麗な所作で箸を運ぶ彼の姿にしばし見惚れていたのだが。

 あ、また噛まないで飲み込んだ。

 その姿にブッと吹いた。


「あ、なに端っこに寄せてんの。それ、春菊のおひたし、残したら許さんからな」


 ぐっと京介君が固まった。むっとへの字に歪んだ唇がなんだか可愛くて。

 私はとうとう爆笑してしまった。


「あっははっ! 子供か、アンタは!! そんなに嫌いやの! くくくっ、可愛いのはどっちやねん! ちょお待っとき」


 そう言うと、私は別で作っておいた野菜なしのおかずと白米を、京介君の目の前に置いた。


「はい。これは野菜なしや。おもろいもん見せてもろたから、今日はこれで許したる。でもな、ちゃんと野菜食べんと大きいならんねんで」


 また吹き出しそうになるのを噛み殺しながら、驚いた顔で私を見つめる京介君から視線を逸らした。


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