Under The Darkness




 締め上げた掌ごと引っ張られ、私の身体が京介君の胸に抱え込まれる。

 鼓動が尋常じゃないほどに早鐘を打つ。

 京介君は慰めるように、私の頭をゆるりと撫でた。


「……可哀想に。私に魅入られたばっかりに」


 その言葉に、私は顔を上げて京介君を見た。


 可哀想。


 そう呟く京介君の顔は、捕らえた獲物を欲のまま屠《ほふ》る残忍さを孕んでいて。

 ゾクリと全身の産毛がそそけ立つ。


「ああ、そうでした。父さんはここへは来ませんよ。ここへ来る時に私が吊しました」


 ケダモノを内に隠し、京介君はにこりと微笑んだ。


「貴女は父さんに心を許しすぎている。二人っきりになったが最後、貴女はあの男の子供を孕まされますよ」


「そんなことっ」


 なんて恐ろしいことを言うのかこの男は。

 自分のことは棚上げ状態で、ありえないことを言うなと非難の目を向ける。

 ククッ喉の奥で嗤いを噛み殺しながら、京介君はゆるりと頭を振った。


「気をつけないと本当に襲われますよ。私はどうやら父親似なので、父の行動が手に取るように分かるんです。本当に嫌になりますね。なぜこうも行動が同じなのか」


 腹立たしいといった面持ちでそう言いながら、京介君の手が私の服に浸入し、シャツを捲り上げた時だった。


 ピンポーンピンポンピンポン


 けたたましく鳴る玄関ベルに、ムッと京介君の顔が不機嫌に歪む。




 京介君は自分の腕から逃げだそうと立ち上がった私の足を払い、ダンッと大きな音を立てて引き倒した。


「……痛っ!」


「まさか。出る気ですか」


 ――――せっかく美里さんで愉しもうと思ったのに。


 そうはさせるかと俯せ状態で藻掻く私の背中に手を付いて、京介君に動きを封じられてしまう。


「美里ちゃーんっ! 撮影の時間だよーっ、起きてるよね!?」


 鈴木さんの声だった。

 私は大きく口を開いて、


「助けて鈴木さんっ、不審者です――っ! 殺されっ、ふぐっ」


 京介君に口を塞がれてしまう。そして、口を覆った手で首ごと持ち上げられてしまう。


 ――――私、首つり状態だった。



「誰が不審者ですか?」


 ――――お前以外に誰がいる!? 


 私は、お前だお前っ! と涙目で訴えた。


「……これは、本格的な調教が必要なのでしょうか?」


 愉しげに唇をつり上げながら、京介君は空恐ろしい言葉を吐く。

 私は口を押さえられたままブンブン頭を振ろうとする。

 でも、首つり状態で顔を掴まれているので動かすことも出来なくて。


 その時、バタンッと扉が開いた。


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