Under The Darkness
その後、京介君は鈴木さんに撮影場所を聞き、猫のように私の首根っこを掴み上げ、ズルズルと引っ張りながらマンションを出てしまったんだけども。
『グズグズするな』
マンション下に留めてあったAPRILIAのバイクからメットを取り出して、無骨な仕草で私に手渡してくる。
不機嫌に双眸を眇める京介君に、私は鬼の首を取ったにんまり顔で質問してみた。
『京介君? アンタ、私のファンやったん?』
『自意識過剰なんじゃないですか、貴女』
間髪入れずに嘲笑で返され、ムッと唇を尖らせた。
『うわ、ムカつくわその態度! バイク好きの情報なんて今はもう残ってへんのに、なんで知ってんねん。リアルタイムで私のことチェックしてたとか、キモイこと言わんよなあ?』
『……そんな事実はありません。私自身美里さんが所属する事務所の株を多数保有していますし、貴女が姉だと知っていましたので。事務所からの情報はコンスタントに届いていました。ただ、それだけのこと』
理路整然と、たったそれだけで他意はないのだとばっさり切って捨てられてしまう。
私は何故か期待が裏切られたような心地がしてしゅんと項垂れ、だんだん腹が立ち、むっと眉根を寄せた。
そして、『なんか恥ずかしい誤解した感じ?』と二の句が告げずに黙り込む。
あんなに私に対して執着を見せるくせに、『リアルタイムにチェックしてましたキモくてゴメンネ』くらい言って可愛げを見せてくれたら、少しくらい絆されてやってもいいのに。
そんな風に思ってしまった自分の変化にギョッとした。
絶対絆されてなんかやるものかと、頭を振って気の迷いを払い飛ばす。
ムッと厳しいしかめっ面を作って京介君を睨んだんだけど、京介君、可哀想な子を見るような顔でクスリと笑んだ。
『ニヤニヤしたり蒼くなったり。妙なことばかり考えていないで、さっさと乗りなさい。しっかり私を掴んでいないと、本当に振り落としてしまいますよ』
メットを被りバイクに跨がりながら、どこか愉しげな口調で脅してくる。
なんで考えていることがわかったのかとヒヤリとしたんだけど。
メット越しに見えた京介君の微笑みに、瞬間、胸の鼓動が一際大きく高鳴った。
違う違うと頭を振りながら、何が違うのかと自問自答し、結果、怖くなって思考を閉ざしてしまう。
『……分かったし。アンタ煩いねん』
反抗期の子供のような口調でそう返すと、バイクに跨がり京介君の腰におずおずと腕を回した。
『緩すぎる。もっと強く』
甘さの滲む厳しい声に、ちゃんと掴んでいるじゃないか。これ以上どうしろというのか。と、腹を立てるんだけど。
高揚したようなふわふわする気持ちと、もやもやとした不安が交錯し、私をひどく落ち着かなくさせる。
――なんでこんなヘンな思いせなアカンねん!
恨みを晴らす勢いで、私は京介君の腰をプロレスの絞め技並みな強さでギュウギュウ締め上げてやった。
『それでいい』
満足げにそう言うと、京介君は私を乗せて走り出したんだ。
けれど、順調だったのは最初だけ。
疲れて腕の力を緩めようものなら、わざと蛇行運転をして私をビビらせる。
その度にギュッと京介君にしがみつくんだけど、その力を緩めるとまた蛇行。
何度も何度もその繰り返し。
私は本当に殺されてしまうんじゃないかと到着までいらぬ緊張を強いられ続けた。