Under The Darkness





 海から吹いてくる冷たい潮風が間断なく身体を掠め、小さく身体を震わせた。

 金城さんの指示通り、私に顔を寄せたままの悠宇が、見咎められないよう小声で耳打ちしてくる。


「みぃちゃん、あの男、馬淵京介。あれ、間違いなくお前の弟なんやろ?」


「……うん。でも、ホンマは違うみたいやねん」


 DNA鑑定で他人であると分かったらしい。

 その事実を、京介君に聞いたまま悠宇に伝えた。

 悠宇は「ふうん」と声をもらした。


「やっぱりな。アイツのお前見る目。あれは姉を見る目えちゃうもんな」


「……うん」


 私は素直に答えた。

 世にある姉弟が抱くような『家族愛』と言った種類のものではないのは確かだから。

 普通ではありえない感情。

 いびつに歪んだもの。


「アイツ、お前のこと絶対好きや。恋愛感情の『好き』。間違いない」


「……『好き』?」


 断言する悠宇に、私は思わず顔を向けてしまう。


「せや。それも、豪や他の男らと同じ。みぃちゃんを傷つける『好き』や」



 ――――オレとは違う。


 悠宇ははっきりと言い切った。


 そうか。

 京介君の言動から、憎しみ以外の感情が交じっているのは間違いないと思ってはいた。

 悠宇の目にも、京介君は私のことが『好き』、そう映っているんだと納得した。

 確かに。

 『好き』という感情は、いつだって私に暴力をもたらすものだから。


「『好き』は、なんでいつも私に残酷なんやろね」


 男子から『好き』と告白されたら。

 女子達は、自分に向けられる異性からの好意に、少なからず心ときめかせていたように思う。

 けれど、自分にとってそれは違った。

 その想いは、暴力の合図としてしか受け取れなかった。

 他の子達みたいに、ありがたいと感じる前に、恐怖に苛まれた。

 私は異性から向けられる恋愛感情、『好意』そのものを、善意として受け取ることが出来ないんだ。

 悪意の塊のように感じてしまう。


「なんや私、淋しい子ぉみたいやな」


 嘲笑が浮かぶ。

 幼い頃から色んな男の手で歪められてしまった私自身は、もう矯正不可能なんだろう。

 諦めるしかないのだと、期待してもムダなのだと知った。


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