Under The Darkness
17
私は昏い深淵《しんえん》を揺蕩《たゆた》うようにして、長い夢を見ていた。
それは、私から『愛』を奪い去った男の夢だった。
小学校低学年の頃から中学校までずっと、5年に渡り私を待ち伏せ続けていた、30代半ばくらいの男性。
その男は、今まで一度も私を連れ去ろうだとかはしなかった。
私がまだちいさなうちは遠くから見つめているだけだったんだけど、小学校高学年辺りから話しかけてくるようになって。
それが次第にエスカレートして、馴れ馴れしく身体に触れてきたりだとか、卑猥な言葉を囁いたりだとか、そんなことが繰り返されるようになって、私、とても怖かった。
だから、ママに言って警察に通報したんだ。
そうして彼は、捕まったはずだった。
けれど、男はまた私の前に現れた。
『キミのせいで、全部失ってしまったよ』
まだ中学に入りたて、ピカピカな制服を着ていた私は、彼の姿を見て浮かれていた気持ちが一瞬で恐怖に変わった。
『美里ちゃん、どうして僕を通報したの? 執行猶予がついて、留置所から拘置所に送致されただけで済んだけど。もうキミに会っちゃダメって言われてしまったんだよ?』
ジリジリと距離を縮めてくる男が怖くて。
誰かに助けを求めようと、あたりを見回した。
ガードの砂利道の下にはこぢんまりとした田んぼがあって、その向かい側には個人が所有する竹林が広がり、ざわりと不安を煽る葉なりを奏でているだけで、誰もいなくて。逃げ場すらなかった。
人通りが極端に少ない場所。
もう夕暮れ時で、さらに人が通らなくて。
私は男に手を掴まれ、強い力で引き摺られるまま竹林の中へと連れて行かれてしまったんだ。
大声を上げようとした口を男の湿った掌で塞がれて、担がれるようにして運ばれる。
怖くて怖くて。
私は、渾身の力で暴れまくった。
けれど、大人の力には全然敵わなくて。
連れてこられた先は、小さな使われていない小屋だった。
ドサリと身体を放られて、這うようにして壁際まで逃げた。
古びて錆び付いた農具が無造作に立てかけられている。
風に揺られてカタカタと小さな窓が音を立てていた。
薄暗く気味悪い場所。
腰を抜かした私は、ガクガクと震えながら男を見上げた。