Under The Darkness
愛と死と

18





 頭がガンガンする。



 ここはどこだろうと、うっすらと瞼を開けてみた。

 剥き出し配管が縦横に配置されたコンクリートの天井に、裸電球がつり下げられただけの薄暗い室内。塗装が剥がれてコンクリート部分がのぞく崩れかけの壁。流れの遮られた空気は澱み、埃臭くて。風に押された窓ガラスが、ガタガタとひっきりなしに耳障りな音を立てている。

 まるで、廃墟のような場所。


 身体がひどく重くて、沈んだ意識が中々浮上しない。

 けれど、耳元で聞こえる荒い息遣いと、私の胸を服の上から掴み上げる感触に、今、私の身に起こる事態を否が応にも知らしめる。


 ――ああ、また。


 好き勝手に身体を嬲られてしまうのだと、再び遠のきそうになる意識の端で理解する。


「おい、ちゃんと撮れてっか?」


 荒い息の中、タバコ臭い体臭が私の鼻を掠めた。


「おう、女の顔バッチシ映ってる。これ見たら馬淵の野郎、血相変えて飛んでくるだろうよ」


「ひひっ、アイツには腐るほど恨みがあるからよお」


 沢山着込んでいる私の衣服を脱がそうとしているのか、苛立ちの混じる声と布が引き千切られる悲鳴のような音が耳に響く。

 くにゃりと力の入らない肢体を、人形のように弄ばれる。



「おい! グズグズすんな、さっさと脱がせ!」


「なんだこの服! 脱がせ方がわかんねえ。ナイフないか」


 ゴスロリ風な衣装の一番下には、身体をきつく締め上げ、ラインを綺麗に見せる特殊なコルセット。それをどう扱ったらいいのかわからないらしい男のイライラした声。

 服のあちらこちらをひっつかまれる。四苦八苦している様子の男に、まだ全部は脱がされていないのだとホッとする。

 けれど、スカートを乱暴にたくし上げられ、分厚いタイツとカボチャのような膨らみのあるパンツをつかまれて下ろされそうになる。

 イヤだ。

 もう、乱暴されるのはイヤ。

 閉じた目に生理的な涙が滲んだ。


< 272 / 312 >

この作品をシェア

pagetop