Under The Darkness
騒然となるまわりを一切無視し、黒のコートを翻した京介君は、立ちはだかる男達の急所ばかりを狙い一息に沈めてゆく。
銃を手に、照準を京介君へと合わせる男に、引き金を引くより早く、男のこめかみに拳が入った。殴られた男は床に沈んだまま昏倒してしまう。
発砲してきた男は、背を低くした京介君に喉仏を足で蹴られ、後ろに弾き飛ばされた。
蹴られた喉をかきむしりながら、男は呼吸困難に陥り、白目を剝いて意識を失う。
流れるような、舞いを舞うような、流麗な動きで男を捕らえ、殴り、蹴り倒す。京介君は一度も止まることなく攻撃を繰り返していた。
男達の顔から余裕が消える。
多勢に無勢だからと過信していたか、もしくは、外に控えているはずの援軍を期待していたのかも知れない。
けれど、室内にいた仲間達は次々と倒され、援軍などやってこなくて。
激しい焦燥が男達の冷静な判断力を奪ってゆく。
「外の連中は、皆、眠ってます。この程度が相手とは。馬淵もナメられたものです」
京介君は片唇を歪めながら、呼吸の乱れすらなく嘲りの言葉を吐いた。
その時、彼の背後からナイフを持って近付いてきた男に気づき、私は声を荒げた。
「後ろ! 危ない!」
声と同時に、京介君はすっと身を屈め床に手を付くと、下から男の顎を蹴り上げた。
放物線を描きながら後ろに吹っ飛んだ男は、そのまま動かなくなる。
「コイツ、加減なく急所ばかり狙ってやがる! 『血に飢えた狂犬』、話に聞いてたけど……コイツ、マジでイカれてやがる……っ」
残った男達が京介君の容赦なさに後退り出す。
短い時間で、男達の数が半分になっていた。
一番近くにいた男に目を向けた京介君は、彼の背より高く上げた足で、男の延髄を砕く勢いで振り下ろした。
声もなく頽れる男に見向きもしないで、再び走り出す。
音もなくもの凄いスピードで床に転がる私に近付くと、私の上に乗っかる男を蹴り倒した。
「……お前。美里さんに触れたな?」
蹴り飛ばされ吹き飛んだ男に、燃えるような怒りを向けながら、感情のこもらない機械じみた声で問う。
男の手から離れたナイフに目を留めると、それを掴み、ひっくり返る男の口に突っ込んだ。
男はひっくり返ったまま、目尻に涙を溜め、ガタガタと大きく身体を震わせている。
ナイフを突っ込まれ閉じることの出来ない口からは、だらしなく涎が溢れていた。
男は「やめろやめろ」と、聞き取れないほどに覚束ない懇願の声を上げ続ける。
「美里さんに触れた箇所、全て切り取ってやる」
狂気に輝く京介君の双眸は男をひたと捉え、愉悦に綻ぶ唇で死刑宣告にも似た言葉を紡ぐ。
京介君は握ったナイフに力を込めた。