Under The Darkness
「ぎゃあああっ」
手加減され、気を失うことも出来ない状態で、殴られ、蹴られ、デジカメを握ったままの掌を黒の革靴で容赦なく踏みにじられる。一発で沈めるのではなく、時間を掛けて嬲られる。
間断なく叫びを上げる男の声に、私は耳を塞いだ。
踏みにじられて、掌から骨が砕ける鈍い音がした。赤く染まる掌の下でデジカメがグシャリと潰され、その破片で皮膚が裂けて、京介君の靴底は真っ赤な血だまりの中にあった。
さらにグリグリと踏みにじる。
京介君の靴底とデジカメの残骸に挟まれた男の掌は、無残なほどにひしゃげていた。
ダンッと勢いをつけて持ち上げた足を落とす。
掌に突き刺さった破片が、手の甲まで突き出ていた。
男は一際大きな悲鳴を上げると、そのまま白目を剝いて失神してしまう。
それでも、京介君は彼の掌を踏みつける力は緩めなくて。
「や、やめて! 京介君、それ以上やったら……アンタのことホンマに嫌いになってやる!!」
私は我慢できなくて声を荒げた。
「……美里さん……」
動きを止めた京介君の顔が驚愕に彩られる。
私の姿を捉え、それはイヤだと子供のように小さく頭を振った。
私の姿を今初めて捉えたように驚く京介君の顔が、ゆっくりと綻んでゆく。
くしゃりと泣きそうに歪むあんな顔、初めて見た。
私に擦り寄るようにして、ふわりと抱きしめてくる。
まるで、壊れ物を扱うような繊細さで。
京介君は自分が着ていたコートを脱ぐと、私の身体をそれで覆い隠した。
京介君のコートから伝わる体温と彼の残り香りが、肌と、鼻腔をくすぐる。
たったそれだけのことで、不安が払拭され深い安堵に包まれてゆく。
私は、自分の中の大きな心境の変化に苦笑した。
「私は間に合ったのでしょうか」
ほぼ全裸な私の姿を見て、京介君は不安そうに双眸を歪める。
私はにこりと微笑んだ。
「間におうたよ。なんもされてへん。ありがとう。アンタが持っとる残虐性は目を覆いたくなるほどホンマに大嫌いやけど、助けてくれたことは感謝してる」
「……貴女はいつも一言余計だ」
ホッと安堵を滲ませながらも、むっつりとした口調で京介君は呟く。
私はクスリと笑んだ。