Under The Darkness
「また助けてもろたね。私を見つけてくれて、京介君、ホンマにありがとう」
私の感謝の言葉に、京介君は自信たっぷりな笑みを浮かべて宣言した。
「私は貴女がどこにいても、必ず見つけます。私だけが、貴女を見つけることが出来るのです」
……ああ、この男は。
私はまたも苦笑が漏れる。
もう隠す気がないのだろう。京介君の心にある本心がダダ漏れだと、私は笑みを深めた。
「私は誰にも手に負えん思うけど。でも、なんで私がここにいるってわかったん?」
私はふと頭を掠めた疑問を口にしてみる。
「誰の手にも負えない貴女を扱えるのは、私だけと言うことですよ、美里さん。それに、時間を空けずすぐ来れたのは、攫われた貴女の後を付けてきたからです」
京介君はさらりと答えるんだけど。
私はまたも首を捻った。
「あのバイクで?」
京介君はその通りだと頷いた。
「でも、追ってきてないってあの男が言うてたやん。あんな目立つバイク、すぐバレるやろ?」
「意外とバレないものですね。私も驚きです。さあ、美里さん。グズグズしてられません。父さん達が外で待っています。ここを出ますよ」
いきなり会話をぶった切った京介君に、グイッと抱き上げられる。
腑に落ちないと首を傾げながらも、京介君が放った言葉に反応してしまう。
「え? お父さん?」
お父さんまで助けに来てくれたんだろうか。
私は驚きの目を京介君に向ける。
「ええ。父さんが放った内偵からの報告で、沢渡会が動き出したと聞いていたそうです。私がここへ着いたと同時に、父さん達もやってきましたからね」
忌々しいとばかりに、知っていたなら事前に連絡くらいしろと舌打ちを鳴らす。
その時、扉の向こうから父さんの声が聞こえて来た。
「美里ちゃん!? 大丈夫!? 京介に着いてくるなって老人扱いされたんだよ、まだまだ現役なのに!」
京介君の腕から私を奪おうと手を伸ばすお父さんに、京介君はスッと片足を振り上げた。
「おおっと! 京介の足には注意だよ。京介は小さい頃からキックボクシングばかりしていたからね。蹴られたら骨が折れちゃうんだから。巷《ちまた》で『血に飢えた狂犬』とか呼ばれて、今まで何人病院送りにしてきたことか」
怖い男だよねえ、とお父さんはデカい身体を震わせるんだけど。
私、骨が砕ける音、さっきナマで聞きました。
今更ながらにゾッとする。
あんな惨状を見せられては、確かに『血に飢えた狂犬』という表現は彼にピッタリだと納得してしまう。
その時、ハッと大切なことを思いだして、私はお父さんに声を上げた。
「あ、あんな、お父さん! 私を誘拐するために、スタイリストの乃愛《のあ》さん、息子さん誘拐されてしまって……今、○○県の櫻岳山頂付近の小屋に縛られたまま捕らわれてるん! お願い! すぐに警察に言うて助けて!!」
「なに! よし! すぐに舎弟をやるから心配いらないよ」
そう言うと、お父さんは扉の外に待機させていた舎弟さんに指示を出す。
「……よかった」
舎弟さんが彼女たちを助けるために現場へ向かう姿を見て、ホッと胸を撫で下ろした。
胸のつかえが取れた気がして、安堵に心が緩み、また涙が溢れそうになる。
その時、カタンと小さな音が壁際から聞こえた気がして、視線を向けようと顔を動かした。
にこにこ顔のお父さんと京介君に、ビリッとした緊張が走る。