Under The Darkness




 ひたりひたりと顔に滴る生暖かい感触に、沈んだ意識が浮上する。

 悲鳴を上げる身体を誤魔化しながら目を開けてみた。


 ―――ッ!!


 私の眸が捉えた衝撃に、引き攣るようにして唇が戦慄《わなな》く。

 目の前には、血塗れの京介君が、私を守るように覆い被さり、きつく抱え込んでいて。

 血の気を失った彼の顔は紙のように白くなり、瞼はきつく閉ざされ――――苦悶に歪んでいた。


「京介君ッ!」


 悲鳴のような私の叫びに、京介君の瞼がふっと持ち上がる。


「……美里さん、怪我はないですか?」


 そう質問してくる京介君自身、尋常じゃないほど血に濡れていて。

 私は言葉を失ってしまう。

 倒れ込んだまま動けない京介君の身体に縋り付いた。


 辺りは火の海で……。

 炎を捉えた私の眸が恐怖に揺らめいた。


 ――火。


「きゃあああっ!」


 炎を見つめたまま、子供のように狼狽《うろた》え、絶叫した。


 何よりも、私は火が怖かった。


 全てを焼き尽くす炎は、私から『愛』を奪い、焼き尽くしてしまったから。


 あの男と共に。


 恐怖で閉じる事を忘れた私の両眼が、目の前で佇む一人の男を捉えた。

 あれは――――。

 中学に入ってすぐの頃、私の目の前で焼死したはずの、私から『愛』を根こそぎ奪っていった、あの男の姿だった。 

 死んだはずの男が、満足げに私を見下ろしていたんだ。


「……大丈夫、美里さん。怖くない。怖いものはもう。何もない。私が傍にいて、貴女を……全ての脅威から守ります」



 ―――この身に変えても、必ず。



 京介君は私に顔を寄せながら、浅く速い呼吸の中、吐息のような声で囁いた。


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