Under The Darkness
「美里さん。もう、いいのです」
私の肩に顔を預けたまま、京介君は抱え上げる私の手をやんわり剥がそうとする。
私は京介君の腕を掴む力をさらに強めた。
絶対に引き剥がさせるものか。離すものか。
断続的に小さな爆音が聞こえてくる。
建物の天井からは火の粉と共に、コンクリートの破片がパラパラと落ちてくる。
建物が今にも崩壊しそうな気がして、私を押し止める京介君の手を乱暴に振り払い、再び彼を運びだそうと力を込める。
京介君は憂いの混じる沈痛な面持ちで、ゆるく頭を振った。
「止めて下さい。もういい。美里さん、貴女に謝ります。本当はわかっていました。悠宇の言葉通りなのです。貴女の心を壊しても、手に入るのは身体だけだと」
―――私は決して貴女を手に入れることが出来ないのだと。
京介君は自嘲の笑みを浮かべながら、ずっとひた隠しにしていた本当の気持ちを吐露した。
「私が本当に欲しかったものは、美里さんの心。狂おしいほどに求めたものは、貴女の愛」
京介君の口からこぽりと鮮血が滴り落ちる。
私の喉から細い悲鳴が上がった。
「……愚かですね。私は、選択を間違えてしまったようだ」
ゴゴゴッと地響きのような音が身体を震わせる。
建物が崩壊する音。
このままでは、生き埋めになってしまう!
私は京介君の腕を掴み、満身創痍の京介君を引き摺りながら、出口らしき扉が見える先へと進んだ。
「死なさへん……絶対に死なさへんからな! 間違った思うなら! 元気になった時に―――もっかいきちんと謝れえええ!!」
地鳴りはだんだん大きくなる。
はやくしなければと、焦燥で身体が焼け付くようだった。
「京介っ、美里ちゃん!!」
その時、お父さんの声が聞こえてくる。
ハッと目を向けると、舎弟さんに支えられたお父さんの姿が目に飛び込んできた。
京介君が助かるかも知れないと、一条の光が差した。