Under The Darkness



 何か夢を見ていたと思うんだけど、朧な意識はもう、それを思い出すことが出来なかった。

 時間の感覚が失われ、窓から漏れる光で、今が昼か夜かを判別するくらい。

 不意に意識は現実に戻り、視線を上げると目の前には白い天井。横を見ると、やはり白い壁。


 ……ああ、そうやな……、ここは病院やな。私の居場所は、この、辛い現実、だ。


 なんで目が覚めてしまったのかな。

 このまま閉じたままで、覚めなくてもよかったのに。

 だって、辛いのはもういやだ。

 悲しいのも耐えられない。


 ――……京介君。


 なんでアンタはここにおらん……?


 涙腺が壊れてしまった私の瞳からは、また涙が溢れ出す。




 その時、ギイッと病室の扉が開けられた。

 閉ざした目を、うっすらと開ける。

 カルテを手にしたお医者さんと、ベッドを押した看護師さんが病室に入ってきた。

 そのベッドには誰かが横になっている。

 今までは広い病室に私一人だけだったが、部屋数が足りなくなったのだろう。今日から相部屋になるようだった。

 特に何の感慨もなく、私は眠りに落ちそうになる虚ろな目で、その様子をぼうっと眺めていた。

 薬で抵抗をなくした私からはすでに拘束具は外されていたけれど、もう、行動を起こす気力が根こそぎ奪われていて。

 このままゆっくり死んでゆけたらいいのにと、左手で顔を覆った。


 先生と看護師の話し声が聞こえてきて、私は掌で覆ったまま顔を背けた。

 先生は、その新しい患者に何か説明をしているようだった。

 そして説明を終えると、先生と看護婦さんはすぐに部屋を出て行ってしまった。

 そしてまた、静寂が戻る。

 意識が混濁し始め、私はまた暗闇に飲み込まれそうになる。


 小さな嗚咽が口から漏れてしまい、目尻に溜まった涙がぽろりと掌の端から零れた。



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