Under The Darkness
「な、仲の良い姉弟やからね! 世間一般な姉弟みたいな感じになったんや! なっ、京介君!」
血が繋がっているのならば。
そうあらねばならないのだと、同意を求めて京介君を見るんだけど。
京介君、全く無視して眉間に皺を寄せていた。
「……写真集にあったあの写真。あの赤いドレスの写真はいただけません。あれは卑猥すぎます。はだけたドレスから、右の太ももだけが際どい部分まで露出してました。私だけが見るのならいいですが、他の人間には絶対見せたくはない代物です」
「だから京介はあの写真集、舎弟に頼んで買いに走らせた挙句、出版元からも出荷前の数百冊、買い占めたんだよねえ」
なに!? 数百冊買い占め!?
京介君の異常な行動にまたも目眩がしてくる。
「ああ、でもよかった。こうして貴女の顔が見れて、話せて。貴女に触れることだって出来る。さすがの私も、このままもう二度と貴女に会えないかもしれないって思いましたからね。貴女に会いたい、その想いだけで、地獄の底から這い上がってきましたよ」
私を抱いていたから逃げることも出来ずに銃弾を受けてしまい、そして、爆風からも私を守ってくれた男は、不意打ちでそんな恥ずかしい事をペロッと言う。
「……そんなん言わんといて。言うたらアカン」
それは、ダメなんだ。
血の繋がりがないから、私は京介君に対して芽生えた恋心を伝えようと思った。
けれど、実際は違っていた。
血の繋がりがあるのなら、その感情を抱くことも伝えることも、してはいけないのだと苦しくなる。
「なぜ? 声を失ってしまうほど、私のことを気にかけて、思ってくれていたのでしょう。貴女は私に心を傾けてくれている。悠宇よりも、他のどの男よりも。違いますか」
――その想いは、血の繋がり如何《いかん》によって変わるものではない。少なくとも、私は。
そう言って、狂おしいほどの熱が籠もった眼差しで私を射る。
私は否定したかった。
けれど、否定の言葉は喉の奥で詰まってしまって出てこなくて。
言わなきゃダメなのに、心に深く根を張ってしまったこの想いを、簡単に捨て去ることが出来なくて。
煩悶《はんもん》に顔を歪め、悄然《しょうぜん》と俯いた。
その時、気まずい雰囲気を破るように扉がノックされ、ゆっくりと開く。
振り返ると、そこにはお父さんの専属侍医である田村さんが扉を開けて立っていた。
「美里さんも京介さんも元気そうで何よりです。さて、組長。……周介さん、お時間です、さっさとしてください」
「え―――っ」
「え―っ、じゃありません」
田村さんが帰りを促すのだが、お父さんは嫌だとダダを捏ねだす。
私は田村さんがお父さんのことを名前で呼んでいることに目を瞠った。
「周介さんには、まだまだ事後処理が沢山残っているのですよ?」
「田村が全部やっちゃって」
「バカを言わないでください。私はただの医師です。さっさと戻りますよ」
細身な田村さんがお父さんの腕をワシッと掴んで、病室から引きずり出そうとする。
お父さん、抵抗してたんだけど田村さんの「良い酒が手に入りましたよ」のセリフで、コロッと態度を一変させた。
「また、明日――美里ちゃんの退院の時間までに来るからね~」
「――周介さん? 明日、時間とれないですけど」
「田村が時間作ってよ」
「……なんで私が。ただの医師なのに……」
じゃあ明日ね~、とデカイ図体でふりふりと手を振りながら、溜息をつく田村さんに引きずられるようにしてお父さんは去っていった。