Under The Darkness





「気のせいや」


「ムカつきますね、貴女。言いますよ、もう」


 京介君は不機嫌に顔を顰めて、その言葉を言おうとする。


 私はそれを止めるため、告白した。


「私な、中国行くねん。3月末から」


「――――は?」


 カメラがあったら今のこの顔、絶対取りたい!! っていうくらい、京介君、目を丸くしたままキョトンとしてる。


「短くて一年、長くて三年」


「……なに?」


 京介君の顔色がサッと変わった。


「私、金城さんに着いて行って、中国で写真の勉強するん」


「聞いてない。事務所からは何も連絡はなかった。……どういうことだ」


 口調が尊大なものへと変わる。

 今までの経緯、そして、今彼が浮かべている表情。

 きっとこの口調が、京介君本来のものなんだろうと感じた。

 また京介君を知ることが出来た。

 そのことが嬉しい。

 私は小さく微笑んだ。



「うん。これは極秘事項やから。事務所内でも他言無用、口外はせん契約やねん」


 金城さんと一緒に写真を撮りたい、学びたい輩など掃いて捨てるほどいる。

 『決して公に出すな』これは、金城さんからの命令でもあった。


「せやから、帰ってきたら話の続き聞かせて」



 今はまだ見逃して欲しい。

 私は京介君が好きだ。

 自覚してしまった。

 京介君に甘えてこのまま一緒にいたら、私は彼にとっていつか邪魔な存在に、足枷になってしまうだろう。

 だって、きっと京介君の未来、人生全てを、貪欲に――欲してしまうだろうから。



 私は今まで異性に対して恋愛感情を抱いたことがない。これが初めての経験だった。

 他の人が、どんな風にその激しい感情を扱っているのか分からなかった。

 自分で持て余すほどの狂おしい激情。

 想う相手に対する鮮烈な執着。

 その傾向が、私は京介君と似ているのかもしれない。

 やはり、私と京介君は血が繋がっているのだと、失意の中思った。


 だから。


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