Under The Darkness
「ッ!! そんなん、そんなん、なんでアンタに言われなあかんの!? 言われるまでもない、あんなヤツ大っ嫌いや! でも、私の身体のことやんか! 私の許可なく勝手なことするんとかマジでやめて!」
吐き捨てるように言い放つ。
その時、筋張った白い手が目に飛び込んできた。
バンッという大きな音に、恐怖で私の肩が大きく跳ねる。
私の背後の壁に、追い詰めるようにして乱暴に手を付いた京介君は、背を屈め、忌々しげに双眸を眇めながら、私をひたと捉えた。
壁に付いた手と逆の手が持ち上がり、その手がまた私に近づいてくる。
殴られる!? と、咄嗟に身構えた。
けれど、京介君、怖がる私を鼻で嗤いながら、伸ばした指先で私の顎に触れてきて、無遠慮にじっと顔を覗き込んできた。
憎しみを孕んだような昏い眸で私を射貫き、動きを完全に奪われてしまう。
ふいに、顎に触れた指先がクイッと動き、上向かされて。
恐怖に肋骨が折れてしまうのではないかと思うくらい、胸の鼓動が強さを増し、速くなる。
「ハッ。幾ら悩んだところで結局堕胎を選ぶ癖に、なに正義漢ぶってるんでしょうね。まあ、とにかくよかったです。でも。貴女はそろそろ自覚しなければいけない。自分が力も知恵もない、疑うことすらしない、非力で愚かな女だということに。ほっておいたら、貴女などすぐに騙されて、今回のようにまた拉致られた挙げ句、男達のセックスドールにされるんですよ。それが嫌なら、何も考えず、私の傍で大人しく守られていたらいいんです」
そう言うと、すうっと酷薄に双眸を細め、京介君の薄い唇が凄艶な笑みを刻んだ。
「でも、安心して下さい、美里さん。もう二度と、他の男に貴女を抱かせなどしませんから。……二度とね」
意味ありげに、京介君はそんな言葉を紡いだ。
私は、見開いた目を閉じることさえ、瞬きさえも出来なくて。
京介君の眸に囚われたまま、時間が止まったように身動ぎすらも出来なくなる。
……なに、なんやの。……京介君、怖い……。
辛辣な言葉を冷淡な口調に乗せ、狡猾な笑みを浮かべる異母弟に、絡まる視線を外すことさえ出来なくなった私は、沸き上がる得体の知れない恐怖に、ゾッと身を竦ませることしか出来なかった。