Under The Darkness
「ゴメン! 大丈夫や、もう平気やし! せっかく着てるスーツ、シワになってまうね。ホンマごめん、2回もやってもうて。悠宇にも栞ちゃんにもいっつも笑われんねん。ホンマごめんなさいっ」
子供のような自分の仕草が急に気恥ずかしくなって、早口で捲し立てる。
京介君の肩が、一瞬、動揺したように戦慄いた。
「それくらいで怒りなどしませんよ。けれど、いつもしているんですか。……その悠宇という男に、甘えるような仕草を?」
「い、いつもってわけちゃうんやけど。た、たまにや、うん。ホンマに、たまーにやねん」
人差し指と親指で『こんなにチョットだけやねん』と表してみる。
少しふて腐れたような顔で、「そうですか」と言ったっきり、京介君、つんっと前を向いてしまった。
それから京介君は無言のまま。
静かな車内で、私は重いため息を吐く。そして、また後ろを振り返る。
馬淵のお屋敷で具合を悪くしたお父さん、早く良くなってくれますように。と、私は心の中で、お父さんの無事をひたすらに祈った。