Under The Darkness









 ――人の声。


 聞こえてきた複数の声に、私は重い瞼をこじ開けた。



「美里さん! 無事ですか!? よかった……目を開けた……!」


 心から安堵した男の声に、私はあの地獄から救い出されたのかと目を疑った。

 ぼやけていた視界が光を映し、像を結ぶ。

 私を覗き込む青年は、意識を失う前に見た、眼鏡を掛けた男だった。


「……だれ」


 私の問いに、彼は言った。


「私は馬淵京介《まぶちきょうすけ》と言います。貴女と私は同じ父親を持っている、いわゆる異母姉弟です」



 その言葉に、私は眉根を寄せた。



「ああ、お母様、蘭《らん》さんから聞いてはいませんか? 貴女の父親の話」



 私は首を振った。ママは生前、父に繋がることは何も口にはしなかった。

 それは、私がいくら聞いても、頑ななほど全く話してはくれなかったのだ。

 私は目の前に佇む男をまじまじと見つめた。



「貴女の父親は、関東一円を統べる川口組の組長、馬淵周介と言います。そして、私はその正妻の息子、馬淵京介。私は貴女の1ヶ月違いの弟になります。貴女とは昔、一度だけ、お会いしたことがあるんですよ?」


 覚えていらっしゃいませんか? そう縋るような目で見つめられるが、私の記憶にはなかった。

 けれど、ママの名前はあっている。

 本当に、彼は私の弟なのだろうか。

 どう見ても、彼の方が年上に見えるのだが。


「助けてくれて、ありがとう」


 私は感謝の言葉を伝えた。

 もう、助けなど来ないと諦めていた。

 あのままあそこにいたら、近い将来、私は死んでいた。


 彼は、私にとって命の恩人とも言えたから。




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