Under The Darkness
2
――人の声。
聞こえてきた複数の声に、私は重い瞼をこじ開けた。
「美里さん! 無事ですか!? よかった……目を開けた……!」
心から安堵した男の声に、私はあの地獄から救い出されたのかと目を疑った。
ぼやけていた視界が光を映し、像を結ぶ。
私を覗き込む青年は、意識を失う前に見た、眼鏡を掛けた男だった。
「……だれ」
私の問いに、彼は言った。
「私は馬淵京介《まぶちきょうすけ》と言います。貴女と私は同じ父親を持っている、いわゆる異母姉弟です」
その言葉に、私は眉根を寄せた。
「ああ、お母様、蘭《らん》さんから聞いてはいませんか? 貴女の父親の話」
私は首を振った。ママは生前、父に繋がることは何も口にはしなかった。
それは、私がいくら聞いても、頑ななほど全く話してはくれなかったのだ。
私は目の前に佇む男をまじまじと見つめた。
「貴女の父親は、関東一円を統べる川口組の組長、馬淵周介と言います。そして、私はその正妻の息子、馬淵京介。私は貴女の1ヶ月違いの弟になります。貴女とは昔、一度だけ、お会いしたことがあるんですよ?」
覚えていらっしゃいませんか? そう縋るような目で見つめられるが、私の記憶にはなかった。
けれど、ママの名前はあっている。
本当に、彼は私の弟なのだろうか。
どう見ても、彼の方が年上に見えるのだが。
「助けてくれて、ありがとう」
私は感謝の言葉を伝えた。
もう、助けなど来ないと諦めていた。
あのままあそこにいたら、近い将来、私は死んでいた。
彼は、私にとって命の恩人とも言えたから。