Under The Darkness
「私は、貴女を憎んでいるんですよ」
その言葉に、私を包みこむ周りの音全てが、ふっと消え失せた。
眼鏡の奥の双眸が凶悪で歪んだ光を放ち、唇にはシニカルな笑みを刻む。
やはりそうだったのかと、分かってはいたけれど、本人に直接言われる決定打に、私は失意に沈み、視線が足元へと落ちた。
「でもね、美里さん」
京介君はそこで言葉を止めると、俯く私の頬に指先でそっと触れ、そして、尖ったあごを乱暴に掴むと、強引に上向かせた。
「痛っ」
「……視界に入れてしまうと――目が離せなくなる」
先ほどまでとはまるで雰囲気の違う、京介君の凶暴な――狂気を孕んだ視線に射抜かれて、体が金縛りに遭ったように竦んで動けなくなってしまう。
「昔から誰に対しても平等に、無邪気な笑顔を惜しげもなく振りまく。そんな貴女が、狂おしいほど憎らしくて。……この手に捕らえて、壊してやりたくなる」
大きく筋張った手をおもむろに私の目の前へと翳《かざ》し、そして、グッと握り締めた。
まるで、ぐしゃりと握りつぶすように。
口調を傲岸で尊大なものへと変え、さもおかしいと言わんばかりに、京介君は肩をくつくつ揺らす。
私の背中はザワザワと総毛立ち、凶悪な雰囲気を纏ったこの男に触れられたくなくて……。
顎に触れる京介君の手を、思い切り払いのけた。
私は京介君から視線を外せないまま、戦くような覚束ない足で一歩後退る。
京介君は酷薄な表情で笑んだまま、離れた分だけ私に近付く。
京介君が近付く度に、ジャリッと砂を食む彼の靴音が、音の消えた世界で嫌と言うほどに大きく響いて聞こえた。
私の心臓が壊れるほどに早鐘を打つ。
「くくっ、何を怖がる? さっきまでの威勢はどうした? 私の方が貴女より年下なのに」
――まあ、たったひとつきだけだが。
眼鏡の奥の双眸は、肉食獣のような嗜虐に輝き、追い詰められた獲物な私は、地に足が縫い留められたまま微動だにできなくて。
「ねえ? お姉さん?」
『姉』という言葉に、ビクリと背が戦慄いた。
私の怯えを感じ取った京介君は、さらに私を追い詰めるようにして、ニッと口角をつり上げた。
――血の楔で、お前を縛り付けてやる。
呪いのように囁かれる言葉。
「逃げられると思うな」
京介君の眸には、激しい憎悪と――色悪な欲の焔が揺らめいてみえた。