Under The Darkness
自分の首の横を突きながら、そんなことを言ってくる。
でも、私は、栞ちゃんが繰り返した『アホ』という単語に気を取られてしまって。
『なんでアホアホ言うん! 栞ちゃんのアホ!』
――アホな子ほど可愛い言うやろ?
栞ちゃんは桃色の唇をうっすらと歪めて、優しい声で囁いた。
そうだ。思い出した。
首、今、京介君が押さえている箇所。
そこは、栞ちゃんが昔、忠告してくれた―――。
頸動脈……。
抵抗する力を失って弛緩する私の口から、京介君の手が離れる。
「……栞ちゃ……、悠、宇、助け、て」
私が放った助けの声に、京介君の掌がまた私の口を覆う。グッと力がこもり、強く塞がれる。
その名は聞きたくないとでも言うように。
呼吸さえ奪われるほどの力の強さに、さらに意識が遠のいてゆく。
「……忌々しい女……」
耳朶を掠める怒りを押し殺したような低く昏い呟きを最後に、私は意識を手放してしまった。