Under The Darkness
誰もいないことを確認すると、意を決してお庭に出てみた。
丸い石の上に置いてあった草履を履いて、少しだけ積もった雪の上に足を乗せてみる。
キュッ、と軽い音がした。突き刺すような冷気が、身体から急速に体温を奪ってゆく。
でも、清浄な空気にさらされることで、穢れてしまった身体も綺麗になってくれないかな、なんてバカみたいな事を考えながら、凍えるままに足を進める。
身体中にあった痣は日に日に薄まってゆく。
けれど、私を襲う悪夢から逃れることは出来なくて。
毎夜毎夜、目を瞑ると襲ってくる、悪夢。
力尽くで私をねじ伏せ、血を持たぬ人形のようにして私を抱く男の姿。
思い出すだけで震えが走る。
息が苦しくなってみるみる視界が狭まり、身体がガクガクと、まるで瘧《おこり》にかかった罹患者《りかんしゃ》のように激しく震えだしてしまう。
足元が崩れ去るような覚束ない感覚に泣き出しそうになる。
池の前で足が止まった。
覗き込むと、水面にうっすらと私が映り込んでいる。
ふいに、池に映った自分の姿に戦いた。
そこには、寄る辺ない様で立ち尽くす、泣きそうに歪んだ顔の私がいたから。