この恋、国家機密なんですか!?
1.彼と私
高速道路で事故があって、私とツアー客が乗ったバスが止まった。
「いつになったら帰れるのよ!」
ツアーのお客様が、私に文句を言う。
気持ちはわかるけど、バスが止まったのは事故のせいであって、派遣添乗員の私のせいじゃない。
でもそんなことを顔に出すわけにはいかないから、ひたすら謝る。
高速の上じゃ、代わりの手段も見つからない。
ただ事故渋滞が解消するのを待つしかない。
私はツアーにきた老人たちの様子に気を配りながら、バスの中で眠れない夜を過ごした。
それでも、添乗員には残業代なんてつかない。
どんなにバスが遅れようが、手当ては1日7千円。日雇い労働者並の待遇だ。
お腹は空いたし、頭はかゆいし、足は痛い。
帰りに寄ったコンビニで時計を見たら、当初の帰宅予定より5時間も遅い、午後1時だった。
疲れた……。
心も体もボロボロになった私は、一人で住んでいるアパートの鍵を開けた。
だるい。
ご飯を咀嚼するのさえ、面倒くさい。
とにかく寝よう。
そう思って狭い玄関に入ると、ごちゃごちゃしたスニーカーやブーツの中に、ひとつだけピカピカの黒い革靴を見つけた。
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