この恋、国家機密なんですか!?


車道の横、歩道の脇にはコンビニや飲み屋さんが並んでいる。

その通りを、グレーのスーツの人が、歩いていた。

すらりとのびた手足。短く切られた、黒髪。


「宗一郎さん……!?」


似てる。

後姿のその人を目で追いかけ、思わず歩道橋の手すりから乗り出してしまった。


「宗一郎さーん!」


叫ぶけど、そのひとは一度もこちらを振り向かなかった。

私は慌てて、あとを追う。

コンビニの袋を提げたまま、歩道橋を猛ダッシュした。


もう、寒さは忘れていた。

陸上部の元エースの実力をここで発揮しないでどうする!


私は十何年ぶりに、全速力で駆けた。

もう忘れていた風を切る感覚を思い出しながら、階段を降りる。

そして、あと1段で地上というところで……。


「わっ、わ、ぁ、ぁ……っ」


気持ちに体がついて来なくて、ぶざまに大転倒した。

橋が凍結しはじめていたみたい。


「いった……っ」


強く打った膝を見ると、デニムが破れて、下にはいたあったかタイツも破れて、血がにじんでいた。

そんな私の様子を見て、横の飲み屋から出てきた男女が、くすくすと笑う。


< 107 / 214 >

この作品をシェア

pagetop