この恋、国家機密なんですか!?


ああ、もう1年も彼氏がいないなあ。

イカのにおいが充満する車内で、突然ものすごく虚しくなる。

前の彼氏は他の会社の添乗員で、ツアー先で知り合った。

だけど、生活がすれ違いすぎて、何度も会えないうちに、あえなく破局した。
だから、なんの思い出もない。


「ただいま~添乗員さん!も~めっちゃ寒かった!」


消臭スプレーを1本撒き散らかしたあと、お客様たちは時間きっちりにバスに帰ってきた。

声をかけてきたのは、さっきの子犬系の男の子。


「おかえりなさい!楽しめましたか?」


私はそれまでのむなしさをこらえ、笑顔で彼らを迎える。

さすが官公庁の公務員さんたち、ジジババより動きが早いし、常識がある。

……なんて、思っていたのが間違いだった。


「事件は現場で起きてるんじゃない!会議室で起きてるんだー!」

「班長、それじゃ逆ですよー」

「見ろ、俺の筋肉。カッチカチやぞ!」

「高浜さん、キャラ変わってます」


宴会場での彼らのはしゃぎ方は、それはもうすごかった。

お酒が入った途端、人が変わったように、全員が大きな声でぎゃあぎゃあしゃべる。

水のようにお酒を飲みながら、なぜか服を脱ぎ始め、互いの筋肉を見せつけあっていた。

……もしかして、自衛隊とか警察の方たちかしら?

普段大変なお仕事の人たちほど、はめを外したときはすごいのだと先輩が言っていたのを、私はぼんやり思い出していた。



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