この恋、国家機密なんですか!?
「添乗員さん、この日本酒、燗にしてもらえませんかね」
彼は冷たい日本酒の瓶を持っていた。
私はうなずき、それを厨房に持っていく。
すると、初老の料理長に、いきなり怒鳴られた。
「それは燗にする酒じゃねぇ!冷酒で飲め!」
どうやら、温めると美味しくなくなるから、それはできないという意味らしい。
大忙しの厨房は、私をポイッとつまみ出した。
「あのう……申し訳ありませんが、これはお燗にできないそうで」
「は?」
とぼとぼと客室に戻って、先ほどのお客様に謝る。
すると、お客様はいかつい顔をさらにいかつくし、大声で怒鳴った。
「温めればいいだけだろ?」
「そうしますと本来の風味が損なわれてしまうので、是非冷酒でお召し上がりくださいと、料理長が……」
「ああ、うるさいなぁ。理由なんかどうでもいいから、燗で飲ませろって言ってんだよ!」
お客様が、返そうとした瓶を強引に押し戻す。
意外に強い力で、私は瓶を抱えるようにして、お尻から転んでしまった、刹那。
ぱしゃり。
水音がした。
「……ぁっ……」
おそるおそる振り返ると、浴衣の袖を濡らした男の人がそこに座っていた。