この恋、国家機密なんですか!?
さあっと、自分の顔から血の気が引くのがわかった。
男の人は鋭い眼光で一瞬こちらを射抜き、すぐに騒ぎの元となった男の人に視線を移す。
「もうやめろ」
たった一言。
それしか彼は言わなかったのに、お酒にこだわっていた男はおびえた顔で黙る。
「すみません、篠田さん」
酔いがすっかりさめてしまった顔で、男の人は篠田と呼ぶその人に謝った。
「謝るのなら、この人に謝れ」
篠田さんは私を指さす。
すると男の人は、しぶしぶといった顔で私に頭を下げた。
……頭にくるなあ。
自分より弱い立場の人にしか強く言えない男って、大嫌い!
でも、相手はお客様。
私は笑顔で謝罪を受け取り、篠田さんに向き直る。
「申し訳ありませんでした」
よく見れば、彼のお膳の上の料理にまでお酒がかかってしまっている。
「すぐにお取替えします!」
慌てて立ち上がると、私に次いで篠田さんもゆっくり立ち上がった。
「いや、あらかたいただいたのでもう結構。それより着替えるから、新しい浴衣を用意してほしい」
「……あっ、はい、承知しました!」
私はすたすた歩いて部屋を出ていく篠田さんの後をついていった。