この恋、国家機密なんですか!?
それにしても、どうやって警察の目をかいくぐるか……。
………………私が犯人みたい。
着ていた服を見下ろすと、ゆったりしたセーターに楽ちんなストレッチ素材のパンツ。
こんな格好で添乗はできないから、スーツに着替えて化粧もしていかなきゃ。
昨日、避難する奥様方になめられないようにと、一応もってきた仕事用スーツとメイク道具を持ち運びしやすいトートバッグに隠した。
そして、昨日話しかけてくれたご婦人の肩をつつく。
「あら、おはよう添乗員さん」
にこりと笑うご婦人。
「おはようございます。あの……」
「はい?」
「さっき、そこで黒い虫が動いたように見えたんですけど……」
「えっ」
黒い虫、と聞くと女性はたいていびくっとする。
そう……ゴキブリを連想するから。
もちろん見たなんて嘘だけど。
「お弁当に被害があるといけないので、捕まえたいんですけど」
お弁当に被害。
そう聞いてご婦人は顔にまで鳥肌をたてる。
ゴキブリにつつかれたかもしれないごはんなんか、絶対に食べられない!
そんな表情をしたご婦人は、すっくと立ち上がった。
「みなさま!Gです!Gがどこかにいますよー!」
ゴキブリ、と言いたくなかったんだろう。
ご婦人が『G』と叫ぶと、周りの人がぎょっとする。
このご婦人……思ったよりやってくれる!