この恋、国家機密なんですか!?
……私は代わりの浴衣を持って走る。
部屋の前で待っていた篠田さんにそれを渡して、頭を下げた。
「あの、ありがとうございました。助かりました」
謝るならこの人に謝れ、なんて言ってもらったことのない私は、正直ドキドキしていた。なのに。
「いや……別に助ける気はなかった」
無表情で言う彼からは、何の感情も読み取れなかった。
若干ガッカリしていると、彼は自分の部屋に入り、新しい浴衣を着てすぐに戻ってきた。
「これ」
さっと何かを差し出す篠田さん。
よく見ると、それは名刺、のようだった。
もしかして、連絡先!?
こうしてお客様に名刺を渡されることはたまにあるけど、そのほとんどがオッサンだったから、私の胸は素直に跳ね上がる。
嬉しい!
はっきり言っちゃえば、篠田さんは私のタイプのど真ん中だったから。
ただ……
「篠田、宗一郎さん」
その名刺には、名前しかプリントされていなかった。
裏返せば、電話番号ではなく、ラインのIDがボールペンで、神経質そうなキレイな字で書かれていた。
「興味があったら、連絡しろ」
突然命令口調になった彼は、168cmの私より、10cmほど上から偉そうに見下ろす。
だけど、全然嫌じゃなかった。なんでだろう。
「興味があったらって、何に?」
もしかして、この人公務員なのに、高利貸しとかしてるのかしらん。
あるいは、夜のお仕事の斡旋とか?