この恋、国家機密なんですか!?
ぷつーんと、頭の中で何かが切れたような気がした。
「その言い方はなによ!私だって、あんたたちだって、誰だって、いつかはどこかで死ぬのよ!だけど、こんなのは間違ってる!絶対間違ってる!」
自分の目的のために、関係ない人の命を巻き込んでいいはずがない。
「……うるさい女だな」
テロリスト代表がピストルをこちらに向け、引き金に指をかける。
それだけで、あたりに悲鳴が響いた。
「あ、あたしは、伊藤唯ですよ」
「は……?」
「唯、やめろ」
近くで宗一郎さんの声がしたけど、もうあとにはひけない。
「あなたたちが狙っていた、篠田宗一郎の彼女の、伊藤唯だって言ってるの!」
厳密には『元カノ』だけどね!
私が叫ぶと、宗一郎さんはテロリストに顔を見られないように、ぐっとうつむく。
「篠田宗一郎の?」
下っ端がカバンの中から何か取り出して、代表に見せる。
クリアファイルに入っているそれは、たぶん当時の作戦に関わった警察官の情報だろう。
その中の書類と私を交互に見て、彼らはにやりと笑った。
「本人みたいだな。たしかに、添乗員をしていると書いてある」