この恋、国家機密なんですか!?
「あっ」
私は雑にパンプスを脱ぎ捨て、短い廊下をスライディングするように小走り。
気分は一気にフィギュア選手だ!
華麗に舞い上がる、私のテンション。
「やっぱり!宗一郎さんだ!」
リビングに続くドアを開けると、狭いコタツテーブルの前に、男の人がひとり。
黒い髪は短くて、キツネみたいなつり目。
「……ちっ」
彼はひとつ舌打ちをすると、目の前のノートパソコンをシャットダウンする。
見られて困るものなら、人の部屋に持ち込まなきゃいいのに……。
でも、遠視と乱視の彼のメガネ姿はレアだから、許しちゃおう。
メガネ大好き!メガネ万歳!
「久しぶり」
パソコンをしまった彼はメガネのまま、こちらを向く。
「すみません、添乗が長引いて」
「あぁ、高速で事故があったらしいな。まさか巻き込まれたのか?」
「うん」
「運の悪いやつめ」
そう言って、彼はニヤリと口の片端だけを上げて笑った。
いやいや、普通「大変だったね」とか、「お疲れ様」じゃないの?
でも、そんな意地悪な笑顔が好き。
彼の名は篠田宗一郎。
歳は35歳だけど、32歳くらいに見える。
職業は公務員。
私の、彼氏……のはずだ。
だけど私は、彼のことをほとんど知らない。