この恋、国家機密なんですか!?
「結婚なんかしなくていいよ、唯ちゃん。いいことなんか、何もないよ」
それは極論だと思う。
だって、お子さんが産まれたときや、その成長を語るマキさんは、幸せそうだったもの。
いいことなんか何もないんじゃなくて、今はつらくて見えなくなってしまっているだけじゃないのかな?
でも、本人にそんなことは言えず、私はただマキさんの背中をさする。
きっとマキさんの気持ちは、暗くて冷たい井戸の底みたいなところにいて、誰かに助けを求めているんだ。
そう、本当は旦那さんに助けてもらいたいのに。
旦那さんに、必要とされたいのに。
それがかなわないから、子供を母親にあずけて、女友達に愚痴をこぼすしかできない。
いつの間にか、こっちまで泣きそうになっていた。
「……私、怖くなってきた」
婚約中の涼子も、涙目でつぶやく。
「もう離婚しちゃったらどうです?そんなやつ、しがみつく価値ないですよ。マキさんのためにも、子供さんのためにも、ね」
結婚もしたことないのに、するつもりもないのに、里枝が全てをさとった顔で言う。
私は、何も言えなかった。
結婚にあこがれる気持ちは、もちろんある。
添乗員の仕事は心身共にもう限界かなと思っている。
今だって、安いアパートでひとりで生活していくのがやっとの経済状態だ。