この恋、国家機密なんですか!?


『だからスポーツ推薦で、有名な高校にも入れたんですけど』

『けど?』

『やめちゃったんですよね……途中で』


唯の声に、かげりが生じた。


『やめたって、陸上を?』

『ううん、高校を。だから私、中卒なんです』


それは意外だった。

唯は話していても話題が豊富で、頭の良い印象しかなかったからだ。

少しとぼけたような雰囲気と頭の良さのアンバランスさが、俺を安心させていた。


『高校で思ったようにタイムがのびなくて……周りに、「やる気ないんじゃないか」って陰口たたかれて。でも、推薦だから陸上だけやめてのほほんといるわけにもいかなくて。クラスでも、高校デビューしたての、色気づいた女の子たちになじめなくて。私、当時は男の子かってくらいサバサバしてて、途端に浮いちゃったんです』


今のロングヘアからは想像がつかないが、それはそれで可愛かっただろうな、と俺は余計なことを思った。


『で……もういいやってなって、中退しちゃったんです』

『ふうん……でもすごいじゃないか。中卒だって、立派にあんな難しい資格試験に通って、添乗員になったんだから』


やっぱり唯は、もともと頭がいいのだ。

感心すると、彼女は腕の中で、ふふと笑う。


< 60 / 214 >

この作品をシェア

pagetop