Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
セダという街については、実はレガロから教わる前から知っていた。
なにしろエルマたちアルの民は、そのセダを通過してイスラ半島へ入ってきたのだ。
当然、エルマだけでなくメオラやカルも知っている街だ。
「そのセダへ五日後、視察に行くことが決まった」
口調は淡々と、しかし表情は重々しくラシェルは言った。
だが、エルマにはそのことがどれほどの意味を持つのかが把握できないでいる。
「なぜラシェルが直々にそんなところまで視察へ? それにわたしは同行することになっているのか?」
エルマの問いに、ラシェルは「それを今から決めるんだ」と答えた。
「セダは周辺の街とまとめて、クランドルという侯爵に治めさせているんだが、少し前からクランドル領から税が納められていない。侯に手紙を送っても返事はなく、派遣した使者も帰ってこない」
「そこで、ラシェルが直々に訪ねることになった、と?」
「そういうことだ。それで、問題はおまえをどうするかなんだが……」
ラシェルが言うと、リヒターが「エルマ、どうする?」と続けた。
「どうする、って……?」
「ここにいてもいいし、兄さんについていってもいい」
「ただ、どちらにいても危険です」
難しい顔で言ったのはレガロだった。
「ラシェル殿下が王都にいないということは、その間城内は……言い方が悪いですが、リヒター王子を担ぎ上げる連中の巣窟となります。この機に乗じて殿下側の姫をどうにかしようと考える者がいてもおかしくありません」
「なら、ラシェルについて行ったほうがいいってことか?」
そう言ったカルを、イロがぎろりと睨みつけた。
殿下を呼び捨てにするな、と、その目が言っている。