Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



「殿下について行く、ということは、国境近くの辺境へ行く、ということです。城のように強固な壁も、警護の兵もいません。つまり……」



 レガロの言葉を、エルマが引き継ぐ。



「賊の仕業に見せかけてラシェルやわたしをどうにかしようと思えばできる、ということだな」



 レガロは頷いた。


「はい」



「いくつか聞きたいことがあるが、いいか」


 エルマが言うと、レガロは再び「はい」と頷いた。



「この中で、城に残るのは誰だ?」



「わたしとリヒター王子、それからフシルとイロです」



 その答えを聞くや、エルマは怪訝そうに眉をひそめる。



「ラシェル以外の全員じゃないか。では、ラシェルの同行者は?」



「いない」



 答えたのはラシェルだった。



「おれ一人で行く」



「ラシェル一人で? なぜだ? いくらなんでも護衛の一人も連れないのは危なすぎるだろう」



「おれがいない間、政務を執るためにリヒターは残る。当然その近衛であるフシルも。イロは宰相だから城を離れるわけにはいかない。

レガロは、おれ側の人間が少しでも多く城に残らなければ王城内の勢力の均衡が崩れるから、城に残ってもらう。

……というのが、おれのクランドル行きを提案した王妃殿下の言い分だ」



 エルマは自分の顔が強張るのを感じた。それではまるで……。



「王妃がラシェルを城から追い出そうとしているみたいじゃないか。それもたった一人で」



「『みたい』じゃなくて、そうなんだよ」



 皮肉な笑みを浮かべて、リヒターが言った。



「あの人は国母の座に取り憑かれた化け物みたいなものだからね」



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