Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 エルマは呟いて、うつむいた。

大食堂が重い沈黙に包まれる。

しばらくするとエルマは、「決めた」と言って顔を上げた。



「わたしはラシェルと共に行こう」


「しかし……」声を上げたフシルに、エルマは「心配しなくていい」とかぶせた。


「フシルは知っているだろうが、カルは強い。それにカルには劣るが、わたしだって腕には自信がある。なにかあっても、自分とラシェルの身くらいは守れるさ」



「しかし、相手は王妃です! あなたやカルの腕は確かかもしれませんが、それ以上の腕の者を、それも複数雇うくらい造作もない」



「だとすれば、ラシェルを一人で行かせればラシェルの危険が増すだけだ」



 そう言うと、フシルは言葉に詰まって黙り込んだ。



 エルマはフシルから目をそらして、ラシェルを見る。かまわないな? と目で問いかけると、ラシェルはかすかに頷いた。



「じゃあ、決まりだね。エルマたち三人はラシェルについて行く。そういうことでいいかい?」



 リヒターが確認する。エルマはそれに頷きかけて、しかしそこで留まった。



(メオラは置いていったほうがいいかもしれない)



 メオラはエルマやカルのように闘えない。エルマとカルだけで、はたしてラシェルとメオラの二人の身を守れるだろうか……。


 迷っていると、ポン、と、エルマの右肩に手が置かれた。振り返って見るとメオラだ。


 まっすぐにエルマの眼を見て、「わたし、行くからね」と宣言する。見透かされていたことに気づいて、エルマは苦笑した。



 そして同時に心は決まった。こういうときのメオラはてこでも動かない。ラシェルに向き直り、「わたしたち三人とも、ラシェルについて行く」と宣言する。



 ラシェルは破顔して、「そうか」と頷き立ち上がった。



「出立は五日後の早朝。それまでに準備をしておいてくれ。荷物はできる限り少なめにな。……それから一同、刺客や毒には気を付けろ」



 ラシェルの言葉に皆が頷き、その場はお開きになった。



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