Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-

*9*


「ほんっっっとにもう、どうしてエルマがこんな危ない目に遭わされなきゃいけないのよ!」



 大食堂での件の、翌晩。


 城壁にぴったりと背中をつけて座りこんだメオラは、小さく憤慨の声を上げた。



 すると、「まだ危険な目には遭ってないだろ」と、壁から小さな声が返ってきた。

積み上げた石の隙間から、壁の向こうにいるラグの声が届いているのだ。



 その日、メオラはラグにエルマのセダ行きのことを教えるために、エルマの部屋に花を飾らなかったのだ。



「これから遭うかもしれないじゃないの!」



「でもカルがついてる。エルマだって強いし、大丈夫だよ」



 壁の向こうでラグがなだめるように言う。



(なによ、落ち着いたふりなんかしちゃって)


 内心では気が気でないくせに、とメオラが口をとがらせると、見えていないはずなのにラグが壁の向こうで笑った。



「今日は不機嫌だなぁ。なにかあった?」



「なんでわかるのよ」そう訊くと、「なんとなく」と笑いを含んだ声音でラグは答える。



「兄さんはいつもそう」



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