Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 だが、メオラは迷うように口ごもって答えない。

ラグはメオラがなにか言うのを黙ってじっと待っていた。



 そうすると、辺りは本当に静かだった。

今夜は風もないせいで余計にそう感じられる。


月が音を吸い込んでしまったかのように、時折聞こえる虫の声以外はなにも聞こえない。



 やがて、メオラはエルマの部屋の窓を見上げて話しだした。



「ラシェルが自分で戦えるってことが、わたしたちにとっていい事だっていうのはわかる」



「うん」と、ラグが相づちを打つ。



「そのほうがエルマとカルの負担も減るし」



「うん」



「でも、わかってはいるんだけど、でもね……、わたしだけ足手まといだなあ、って」



 口にすると悔しさが増して、メオラはくちびるを噛んだ。



 エルマと離れるのが不安で、心配で、自分もついて行くと言ったけれど。



 あの強い三人だけでセダに行ったほうがいいと。

自分が足手まといだと。

心のどこかでずっと思っていたことではあるけれど、ラシェルの剣技を見て、それを突きつけられた気がした。



「わたし、ついて行かない方がいいのかなあ、って」



 それを認めることはひどく痛いけれど、そのほうがエルマのためになるのなら。



「それは困る」




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