Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 ふいに聞こえた第三者の声に、メオラもラグもびくりと肩を震わせた。


声のしたほうを見ると、城の陰に隠れるようにして人陰がたたずんでいた。


暗くて顔は見えないが、その声の主がメオラにわからないはずがない。



「…………エルマ」



 エルマはメオラのほうへ歩み寄ると、「まったく、危険なまねをして。他の者に見つかったらどうするんだ」と苦笑した。



 それから城壁に向かって、「そこにいるのはラグだな?」と声をかける。



「あはは。ばれちゃいましたか」



「メオラが毎日決まった時間に決まった数の花を飾るから、なにかあるなとは思っていたんだ。

それが今日は花が飾られなくて、しかもこんな夜中にこっそり部屋を出て行くからな」



「気になって後をつけてみた、と」



 笑いを含んだラグの言葉に、エルマは「ああ」と頷く。



 それを聞いて、メオラは複雑な顔をする。



(なんで部屋を出ていったってわかったのよ……)



 たしかにメオラの部屋はエルマの隣だが、細心の注意を払って音を立てないようにしたのに。


その上、後をつけられていることに気づきもしないなんて、自分に腹が立つ。




「さっきの話」


 ふいにエルマが言って、メオラはパッと顔を上げた。



「メオラがいないとわたしが困る」



「そんなの嘘」



「嘘じゃない」



 優しく否定するエルマの目を直視できずに、メオラは顔をそむけた。



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