Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
エルマは嘘をついている。そう思った。
邪魔じゃないわけがない。足手まといじゃないわけがない。
そんなことはわかりきっているのに。
(この上エルマに気を遣わせて、ほんとうに、わたし……)
役に立たない自分が悔しくて、メオラは眉間にぎゅっとしわを寄せる。
目元に力を入れていないと泣きそうだった。
すると、唐突にエルマがメオラの眉間に触れた。
そっとほぐすように、親指で優しくなでる。
メオラが驚いて顔を上げると、エルマはどこかいたずらっぽく笑って言った。
「メオラがいないと、ドレスの背中のリボン、きれいに結べない」
その言葉に、メオラはぽかんと口を開けた。
そんなくだらないところで役に立ってもしかたがない、と言いかけて、しかしメオラは口をつぐむ。
(くだらない、のかしら? リボンが結べないと、ドレスを着られないし。結びが雑だとルドリア姫として人前に出すわけにもいかなくなるし。
でもまさかラシェルやカルにやってもらうわけにもいかないし、そもそもカルはリボンなんてきれいに結べないでしょうし……)
考えているうちに、自分がエルマにとって必要なのかそうでないのか、混乱してわけがわからなくなってしまった。
「それに、」
そんなメオラにエルマがさらに言う。
「メオラがいなかったら服をきれいに畳めなくてくしゃくしゃにしてしまうし、髪を結い上げることもできない。
あと、わたしがうっかり寝間着のまま部屋の外に出ようとするのを止めてくれる人がいない。
つまりだ、メオラがいなければルドリア姫はしわくしゃでリボンのゆがんだドレスを着たボサボサの髪の、
下着同然の服装で外をうろつく恥知らずな姫だ、という噂が流れてしまう。
これは困る」