Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
本当に困った、という顔で語るエルマを、メオラは苦い顔で見ていた。
壁の向こうからは押し殺したラグの笑いが聞こえてくる。
(ああ、そうだったわ。エルマってどうしてだか、かなり生活能力がないんだったわ)
エルマは武術に秀でて、頭が良くて知識の吸収が早く、長たる気概も冷静さも責任感も備えているとメオラは尊敬しているが、
手先が他に類を見ないほど絶望的に不器用だ。
今更ながらにそれを思い知ったメオラだった。
これは、メオラがついて行かなければならない。
そうしなければルドリア姫の風評が最低なことになる。
そうなればラシェルの風評も傷つくし、噂がルイーネ王家に伝わって不審に思われれば、ルドリア姫失踪がルイーネ王家に知れて戦争再開という結果にもなりかねない。
それはなんとしてでも防がねば。
メオラがおのれの使命を噛みしめていたそのとき。
「ああ、それから」
思い出したようにエルマが言った。
まだなにか付け加えようとするエルマにぎょっとしたメオラは、「え、まだあるの!?」と顔をこわばらせる。
エルマはそれにすこし笑って頷いた。
「うん。メオラがいないと、わたしの元気が出ない」
まったく予想外の言葉に、メオラは目を見張る。
壁の向こうから、ははは、と笑う兄の声が聞こえた。
「それじゃあ、メオラは絶対に連れて行かないとだね」
「うん。そういうことだから、メオラ、自分が足手まといだなんて言うな」