Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
すると、扉の向こうからラシェルのものとは別の声が聞こえた。
「ですが殿下、このままではいずれ城内の勢力の均衡は崩れます」
気難しげな低い声はイロのものだ。
「だからって、リヒターを王都から追い出すなど……」
なんだか、聞いてはいけない話のようだ。
メオラは「早く行こう」と、エルマの服の裾を引っ張ったが、しかしエルマは動かなかった。
厳しい顔をして、じっと扉を睨みつけている。
「追い出すのではありません。なにか理由をつけてリヒター王子をいったん地方へ出し、王城から離したほうがいいと申し上げているのです。
これ以上王妃が王子を担ぎ上げられないように」
「しかし、」
「殿下、あなたの安全のために言っているのです。リヒター王子も、あなたのためならば了承しましょう」
ラシェルは黙り込んだ。
フクロウかなにかが王城の庭木に止まったのだろうか、どこからかホウと鳥の鳴く声が聞こえる。
ややあって、ラシェルが言った。
「できない」
「しかし殿下、」
「なんと言われようと、おれの保身のために罪もないリヒターにそんな仕打ちはできない」
「殿下、よくお考えください!」
なおも言いつのるイロに、ラシェルがどこか疲れたような声音で言う。
「考えた。これがその答えだ。……もうこの話は終わりだ、イロ」
その言葉が終わると同時に、エルマはメオラの腕をつかんで歩き出した。
急いで、しかし足音は立てずに歩き、エルマの自室に続く角を曲がる。
曲がりきったところで、後ろで扉の開く音がした。
「ですが殿下、このままではいずれ城内の勢力の均衡は崩れます」
気難しげな低い声はイロのものだ。
「だからって、リヒターを王都から追い出すなど……」
なんだか、聞いてはいけない話のようだ。
メオラは「早く行こう」と、エルマの服の裾を引っ張ったが、しかしエルマは動かなかった。
厳しい顔をして、じっと扉を睨みつけている。
「追い出すのではありません。なにか理由をつけてリヒター王子をいったん地方へ出し、王城から離したほうがいいと申し上げているのです。
これ以上王妃が王子を担ぎ上げられないように」
「しかし、」
「殿下、あなたの安全のために言っているのです。リヒター王子も、あなたのためならば了承しましょう」
ラシェルは黙り込んだ。
フクロウかなにかが王城の庭木に止まったのだろうか、どこからかホウと鳥の鳴く声が聞こえる。
ややあって、ラシェルが言った。
「できない」
「しかし殿下、」
「なんと言われようと、おれの保身のために罪もないリヒターにそんな仕打ちはできない」
「殿下、よくお考えください!」
なおも言いつのるイロに、ラシェルがどこか疲れたような声音で言う。
「考えた。これがその答えだ。……もうこの話は終わりだ、イロ」
その言葉が終わると同時に、エルマはメオラの腕をつかんで歩き出した。
急いで、しかし足音は立てずに歩き、エルマの自室に続く角を曲がる。
曲がりきったところで、後ろで扉の開く音がした。