Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ジラが出て行っても、エルマは姫らしく背筋を伸ばして椅子に腰掛け、メオラは侍女らしく扉のわきに粛然と控えたまま、お互い黙っていた。
やがてジラの足音が完全に聞こえなくなると、二人は黙って互いに目を合わせる。そして。
「「ぷっ」」
滑稽さに堪えきれずに、どちらからともなく二人そろって吹き出した。
「あはは、へんなの。エルマってじっと座っててもあんまりお姫様っぽくないわね」
「逆にメオラは様になってるよなぁ。いかにも侍女、って感じがする」
「それって褒めてないわね」
そう言って、二人でひとしきり笑った。
やがて笑いの静まったエルマが、
「隣の部屋にカルを呼びに行ってくれるか?」
と、メオラに言った。
「わかった」と答えて、メオラは静かに部屋を出て行く。
エルマの部屋の左隣がメオラとジラの部屋、右隣がカルの部屋だ。
メオラは右隣の部屋の前まで行き、扉をノックした。
カルは起きていたのか、すぐに扉を開けた。
「メオラか。なんか用か」
「うん、エルマが呼んでる。久しぶりにあたしとエルマとあんたの三人だけで話そうかって。お茶とお菓子もあるの」
「お、行く行く!」
そう言って出てきたカルは近衛の制服のままだった。
「カル、なんで制服のままなの? 寝てないの?」
そう尋ねると、カルは自分の姿を見下ろして言った。
「まあ、もし夜中になにかあってもすぐに駆けつけられるようにな。それに寝巻きに着替えんの面倒だし」
「ふうん」
大変ね、と。メオラがそう言いかけたときだ。