Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「……セダの件、どうするの」
とたん、安堵の浮かんでいたラシェルの顔が険しくなった。
「連れて行くのは、無理、だろうな……。しかし毒を盛られるようなことになった以上、城においておくのも心配だ」
「そうね。こんなことがあったんじゃあ、城で出る食事にもうかうか手をつけていられない」
メオラがそう言ったときだ。両手で包み込んだエルマの手がピクリと動いた。
「エルマ!?」
メオラの呼びかけに応えるように、エルマのまつげがふるふると揺れて、白いまぶたがゆっくりと開かれた。
「エルマ、平気? 苦しくはない?」
耳元で囁くようにして、メオラが問う。
薄く開けた目を数回ぱちぱちと瞬かせて、さなぎから蝶が出でるように、エルマはゆっくりと目を開けた。
「……メオラ……、わたしは、一体……」
弱々しく名前を呼ぶ声がそれでも嬉しくて、メオラは思わずエルマの手を強く握った。
「お茶に毒が入っていたんですって。飲み込んだのが少量だったから、二、三日でよくなるそうよ」
「そうか……」かすれた声で、エルマは言う。
「……なら、セダには行けるな」
「エルマ、何を……」
カルが驚愕の表情でエルマを見て言った。