Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「どっちにしろ、城にいても危ないんだろう」
「そうだが、病み上がりで馬車旅はきついぞ」
ラシェルが言った。
「そうよ、エルマ。それに旅先でもしも刺客に教われたりしたら、さすがにカルとラシェルだけでわたしとエルマを守りきるのは無理よ!」
「わたしが戦えるまでに回復すればいい話」
「エルマ、でも!」
必死で思いとどまらせようとするメオラを、軽く手を挙げて制して、エルマは言う。
「アルの者たちを呼ぶ」
一瞬、なにを言われたのかわからなくて、メオラは口をぽかんと開けてエルマを見た。
「今、腕っぷしに自信のある者は貴族や商人の用心棒の仕事をしている者がほとんどだろうが、まだ何人かは残っているだろう。
その者たちに警護をさせるというのはどうだ。
もちろん、わたしとアルとのつながりを悟られないためにも『用心棒として雇う』という形になるが」
ときどき苦しそうに荒い息を吐きながら、エルマは言った。
だれも、なにも反応できないでいる。
あまりに予想外の意見にうまく頭が回らないのだ。
「……一応、兄さんは確保できるわね」
沈黙の中、メオラがぽつりと言った。
「たしかに、アルの者を一人か二人でも連れて来ればかなり心強いな」と、カルが続く。