Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-



 呟いたフシルを、ぎょっとしたようにカルが見る。


「なんでわかっ……あ」


「認めたな」



 してやったり、とばかりにフシルはにやりと笑って、だがすぐに不思議そうな顔をした。



「でも、それがなんで辛い恋なんだ? たしかにエルマ様は今は王子妃の立場にあるが、本当の妃ではないじゃないか」



「ま、確かに身分差はねえけどなぁ……」



 カルの呟きはそこで終わった。エルマがすぐ近くまで来たからだ。



「カル、遅くなってすまない」



 馬車に乗り込みながら言うエルマに、カルは「おー」と気の抜けた返事をした。



「メオラはどうしたんだ?」とカルが訊いたちょうどそのとき、城の中からメオラが出てきた。

その後ろから、リヒターにイロ、レガロもやってくる。

見送りに来たのだろう。



 ラシェルに促されてメオラが馬車に乗り込み、続いてラシェルが乗った。最後にカルが御者台に座る。



「無事のお帰りを、お待ちしております」



 邪魔にならないように馬車から一歩遠ざかって、フシルが言う。

いつものようにいかめしい顔をしたイロが、その言葉に同意するように黙って頷いた。



「こっちでも王妃の動きは見張っておくよ。無茶はしないでね、兄さん」


 いつも浮かべている笑顔をすこしだけ曇らせたリヒターに、ラシェルは「ああ」と、力強く笑って頷いてみせる。



「……んじゃ、行くぞ」



 その言葉に馬車の中の一同が頷くのを見て、カルは馬の尻を軽く叩いた。


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