Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
ギドとエルマが互いに自己紹介を終えると、それまで笑みを浮かべていたラシェルの表情が真剣なそれに切り替わった。
「それで、侯よ。おれが何故セダまで侯を訪ね来たかはわかるな?」
ギドもスッと表情を引き締めて頷く。
「はい。税の滞納の件ですね」
「わかっているなら話は早い。税を滞納した理由と、使者を送ったにもかかわらず返事をしなかったわけを述べろ」
厳しい口調で問いつめるラシェルの視線から逃れるように、ギドは顔を伏せた。
「これまで滞納した分の税をまとめてお納めできるだけの麦は、あります」
その言葉に、ラシェルもエルマも驚いたように目を見開いた。
「しかし、それを今お納めすることはできません」
「なぜだ」
「殿下もここへいらっしゃる際にご覧になったはずです。……我が領地の民が、一人として家の外に出ていなかったのを」
ラシェルとエルマは思わず顔を見合わせる。
たしかに、見た。
ラシェルはそのことについてもギドに尋ねるつもりでいたのだ。
「ああ、見た。……侯よ、貴殿の領地でなにが起きているんだ」
ラシェルが尋ねると、ギドは沈鬱な顔をしてラシェルの顔を見た。
「実は、去年の冬から、原因不明の病が流行っているのです」
「どんな病だ。まさか、貴殿の病もそれか?」
「はい。いまだ死に至った者はおりませんが、発病すると立って歩くのも困難になるほど体が重くなり、始終ひどいめまいがして、頭が痛むのです。
ひどいときは高熱を出し、何度も腹を下すのだとか」