Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「原因不明、と言ったな」
「はい。領民の何人かがその病に倒れたとき、高名な医者を幾人も呼びましたが、原因も治し方もわからぬと……」
「では、ラシェル殿下も危ないのでは?」口を挟んだのはエルマだ。
「死者が出ていないとはいえ、病がうつったら……」
ところが、ギドはエルマの言葉を遮って首を振った。
「それが、どうやらうつるものではないようなのです」
「うつらない……? でも、現に病は広がっているではございませんか」
「はい。多くの農夫が病に倒れました。しかし、彼らに付きっきりで看病をする妻や子らには、うつっていないのです」
「妻や子……。女はその病にかからない、というわけではないのですか?」
「いいえ。女でも病にかかったものはいます。ただ、感染を防ぐてだてとして領民に必要以上の外出を禁じたところ、新たに病にかかる者がおおいに減ったのです」
ギドの言わんとするところが理解できず、エルマは眉をひそめた。
それはつまり、感染を防ぐために外出を禁じたところ新たな感染者が減った、ということは、その病が感染症であるということではないのだろうか。
「それは……」ラシェルが言った。
「罹患者と同じ家に閉じ込められた非罹患者も、病にかからなかった、ということか」
エルマはようやく納得した。
だからギドは「うつる病ではない」と言ったのか。