Elma -ヴェルフェリア英雄列伝 Ⅰ-
「病の原因に心当たりは?」
今日一日何度もした質問を、エルマは繰り返す。
男は申し訳なさそうに首を横に振った。
手掛かりになりそうな答えが返ってくるとは思っていなかったが、ラシェルもエルマもがっくりと肩を落とす。
手掛かりが見つからないのなら、感染を防ぐためにも早々に使者の労をねぎらって退散したほうがいい。
そうラシェルに言おうとして顔を上げたエルマは、男はまだなにか言いたげな顔をしてラシェルを見ているのに気がついた。
ラシェルもそれに気づいたのだろう。「どうした?」と、男に問いかける。
「いえ、殿下……こちらの方は?」
そう言った男の目はエルマを見ている。
そのときになってようやく、エルマはまだ彼に名乗っていないことに気がついた。
「これは、失礼した」
エルマは立ち上がって、使者に一礼する。
「わたしはルドリア・アンバー。ラシェル殿下の婚約者として、ルイーネより参りました」
そう言うと、使者は驚いたように目を見張った。
「王子妃殿下でございましたか。お噂は伺っております。
王子についてこのような辺鄙なところまで来られて、姫にはたいそうお辛いでしょう」
そうでもないけどな、という返事は胸にしまい込んで、エルマはただ微笑む。
「あの城に置いてくるわけにはいかないからな」と、ラシェルが苦笑した。
使者も城内で起きている対立については知っていたのだろう。
その一言で、なぜ「ルドリア」がラシェルに同行したのか理解したようだ。